
小松庵風だより(しょうしょうあんかぜだより) 3 2025.4.25追加
ケンちゃん
「ウワーン、オンオンオンオンオンオンオンオン・・・・」
拳を顔にあて、私に寄りかかって次男は号泣した。インコのケンちゃんが死んだ日の朝だった。
まだ雛のケンちゃんは、次男が作ってやったおもちゃのレゴの家でチョコチョコと遊んだ。疲れるとタオルにくるまり、頭を羽根の間に埋めて瞳を閉じた。
私たちは、その愛くるしさにただただ心を奪われていた。小鳥の飼育に初体験の故に、この鳥の明日の命にまで思いが至らなかった。
初代のケンちゃんとは、たった5日の触れ合いだった。
夜帰宅して事の次第を聞いた夫は次男を評して、「あいつも良いとこあるな!」とひとこと言った。
小松庵風だより(しょうしょうあんかぜだより) 2
どっち
インコのケンちゃんが「ピイピイピイ」と呼びかける。夫が「ピーッピイピイ」と口笛で応える。
「ピッピイピイピイ、ピーッピイ」喉を膨らませてケンちゃんが鳴く。
ケンちゃんはなかなか勉強熱心だ。
まんまるな目で首をかしげ、夫の口元に耳を寄せて、「ドー、レー、ミー、ファー、ソー、ラー、シー、ドー」の口笛を聴きとろうとしている。
見ていたら、どっちが鳥でどっちが人間か分からなくなった。
恋多きいや多すぎて梅の花
ほうこう
小松庵(しょうしょうあん)とは門にかかる小さな松を愛おしんで、祖父馬場一路居士が自宅につけた愛称です。藤田いくみ
小松庵風だより(しょうしょうあんかぜだより)1
無事
「ケンちゃん、お留守番頼んだわよ。あんたがいるから私は安心なのよ。」
インコのケンちゃんに言い聞かせ、玄関の観音様にもようく手を合わせ、私は出かけた。
夕方帰宅して、ドアの鍵穴に差し込んだキーに手応えが無い。
「シマッタ、鳥と喋っていて鍵を掛け忘れたんだ!」
シンとした家の中に、ケンちゃんの声だけがピイピイと響きわたった。
「何事も無かった・・・」
胸を撫でおろし、私はケンちゃんと観音様に無事を感謝した。
小松庵松笑わせて風の春…
ほうこう
小松庵(しょうしょうあん)とは、門にかかる小さな松を愛おしんで、祖父馬場一路が自宅につけた愛称です。藤田いくみ